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技術のルーツを中国・明時代の三彩陶に持ち、
樂家初代の長次郎によって16世紀桃山時代に始められた京都の「樂焼」。
その制作工程と焼成法は450年前と現在も全く変わらずに焼かれ続けている。
樂焼は土の表情を最大限に生かすべく、轆轤(ろくろ)ではなく、
自らの手でかたち作る「手捏ね(てづくね)」によって肉厚に成形される。
また、柔らかな土質を生かした素地は、軟質かつ多孔質に仕上がり、
細かいヒビ割れや亀裂などが独特な風合いを生み出す。
十五代樂吉左衞門 樂直入氏と制作した茶碗では、
樂焼独自の「粒子の荒い土」と「肉厚で多孔質になる焼き方」に着目し、
釉薬を外側にかけて仕上げるのではなく、内側の不均質さによって
「器が自ら模様を描く」ような表現を試みた。
そこで、焼成後の樂茶碗をフェルトを敷いたシャーレの台座に置き、
赤ワインやコーヒー、紅茶、緑茶、ハーブティー、ブルーベリージュースなどの
色素を含んだ飲料を、高台から素地に吸い込ませることに。
それは「器で飲む」のではなく、まるで「器が飲む」ような様子であった。
器の形状や飲料によっても異なるが、ひとつの器が吸い切るまで約36時間を要し、その後、48時間をかけて乾燥。
土の粒子が微細で密度が高く引き締まった部分は染まりにくく、逆に密度が粗い箇所では色素が積極的に入り込んだ。
また、ヒビやフチにも色素が集まりやすい傾向があり、器の内と外でも染み方に違いが見られた。
さらに、ひとつの器に対して2箇所から同時に異なる飲料を吸わせたほか、
器を一度切断し、再び接着し直して「防水壁」を作ることで左右の染まり方が変化するようにもした。
まるで、地下水脈が地質や地形に合わせて、その流れ方を変えながら大地を潤していく様を想起させることから
「潤碗(じゅんわん)」と名付けた。