junwan -chroma-

軟質かつ多孔質な土質と肉厚な成形が樂茶碗の特徴であることから着想した2022年に発表された「潤碗(じゅんわん)」は、
色素を吸い込ませることで茶碗が自ら模様を描くコレクションであった。
このコンセプトをさらに発展させ、水性の万年筆用インクと水を茶碗へ染み込ませることに。

まずは茶碗の底面にインクの線を描く。
次に茶碗を水が含んだフェルトの上に乗せると、下のほうに付着している色が徐々に上へと移動し、
同時に複数の色に分解されていく。
これは「クロマトグラフィー」と呼ばれる分離・分析の手法であり、
普段は「単色」だと思われているインクが、実は複数の色素成分を混ぜ合わせて作られていることがわかる。

色素分離のプロセスとして、まずは茶碗の内部で水が一気に吸い上げられ、次に水が色素を引き上げている。
このとき、水との相性が良く、長時間水に溶けていることができる色素が水とともに上部まで引き上げられ、
一方で、茶碗との相性が良い色素は早い段階で茶碗に定着することから、下のほうに留まる。
この「水との相性」と「茶碗との相性」の違いによって、色素が分離する仕掛けとなる。

その後、乾燥させることで、茶碗の内部に隠れていた色素が表面に浮かび上がるが、
表面の細かい凸部に色が集まることで、さらなる色のムラが発生する。
全8碗からなるコレクションのうち4碗は、表面のキメが細かいことから上下方向に大きく分離している。
残り4碗は荒々しい表面をしていることから色が下のほうに留まりつつ、まだら状の表現となっている。

このように、「色素」と「水」と「茶碗」という三者の間に起きる様々な作用によって、独特の表情が創出された。
そして、土の種類や焼き加減、厚みのバラつき、微細な凹凸など、
茶碗自身に内在している個性が、着色によって強調される結果となった。

Collaborator:
Takahiro Fukino
Arata Nishikawa
Yushiro Yamanaka
Photographer:
Akihiro Yoshida