junwan -redox-
2022年に京都で催された展覧会でお披露目された「潤碗(じゅんわん)」と名付けられたコレクション。
軟質で多孔質な土質と、肉厚に成形された樂茶碗の特徴を生かし、
素地に液体を吸い込ませることにより、茶碗が自ら模様を描くという作品のコンセプトを発展させ、
金属イオン水溶液の含浸と酸化還元反応(=redox)の後、本焼きをして仕上げることに。
使用した金属イオン水溶液は「鉄」「銅」「銀」の3種類。
茶碗を横に寝かせ、片方から金属イオン水溶液を、もう片方からビタミンCを染み込ませた。
両者が茶碗の中央付近でぶつかると、ビタミンCの電子が金属イオンへと移行する酸化還元反応が起きる。
この化学反応によって帯状に色が変化。乾燥後、透明釉がかけられ、酸化焼成が施された。
ビタミンCは燃えて揮発する一方で、金属イオンや金属微粒子は残り、
土や釉薬の成分と結びついて定着、発色する。
一般的な焼き物において、酸化鉄や酸化銅などを釉薬と混ぜ合わせることで色を「表面に乗せる」ことはあるが、
このコレクションは水に溶けた状態の金属成分を茶碗の「内部に含浸させる」という新たな手法を試みた。
同時に、茶碗の中で金属成分とビタミンCがせめぎ合った名残りが、
色や模様の揺らぎとして現れるような表現となった。