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2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震など大規模な災害において、交通網の麻痺や食料不足、
電気・ガス・水道といったインフラ設備の断絶もさることながら、避難生活におけるトイレの不足は
大きな問題であった。その後、様々な簡易トイレが開発、販売されるようになったものの、依然として
普及していないのが実情である。その要因は、「目隠し用のテントの構造部」と「便座を支える構造部」の
サイズと重量であると考え、まずはそれらの構成要素をできる限り削ぎ落とした。
その代わりに、1つのものが複数の役割を「兼任」し、足りないものは身の回りに あるものを
「流用」することによって機能性を補完することを考えた。
持ち運び用のバッグの中に、アルミ製パイプと便座、テント用のナイロン布、ポケットティッシュ、
ゴミ袋と凝固剤の6つのアイテムをコンパクトに収納が可能。また、バッグは最厚部でも
100mm程度とスリムなため、複数を重ねて収納したり、車のトランクに入れたりしても場所をとらない。
バッグは、16リットル分の生活用水(約2回分のトイレを流せる量)の運搬ができるバケツとしても
使えるように、底マチをつけ防水仕様にした。便座の内側は細かいパーツ類を収納する容器にもなる。
次に、日常生活で当たり前に使われているものの「流用」に着目した。何もない砂漠や山奥で
暮らすのとは異なり、現代の都市空間における避難生活においては様々な日用品や廃材がある。
コンビニ等で買うことのできる「ビニール傘」はテントの構造体に。コーヒー飲料等のスチール製の「缶」を
3個連結すると350 mm、2リットルサイズの「ペットボトル」も320 mmといずれも便座の脚として
ちょうど良い高さとなり、中に水や砂を入れることでテント全体を安定させる重しとして役立つ。
これらの日用品の「流用」は、小売店の棚や自動販売機などを想定して外形寸法や口の大きさ、
ネジの形状などがある程度規格化されているからこそ、実現可能だったといえる。