nendo : the space in between

イスラエルのテルアビブ近郊にあるホロン デザイン ミュージアムで5ヶ月間に渡り開催された
nendo初となる大型個展。nendoのモノづくりは、まずは物事の既成概念の領域を探り当てていき、
それらの領域を複数重ね合わせたときに存在するわずかな「スキマ」からアイデアを紡いでいく。
そして、それによって受け手側の思考の幅が少しずつ広がっていくことを理想とする。この一連のプロセスを
来場者に体感してもらうことを目的に、70にも及ぶ作品を6種類の「スキマ」に分類して展示した。

01 between processes
既存の製造過程を見つめ直すことで、その一連の流れにスキマが存在することに気づく。
そのスキマを利用し、新たな工程を加える。省く。順番を入れ替える。あるいは全く異なる製造プロセスと
置き換えることによって、新しい価値を生み出していく。

02 between textures
素材にはそれぞれ固有の特徴がある。それは物性的なものであったり、表情や質感といった情緒的な要素で
あったりと、多岐に渡る。異なる素材と素材の間を見つめると、そこには明確な境界線がなく、
双方の特徴的な因子たちが曖昧に浮遊しているグラデーション状のスキマがあることに気づく。
そして、それこそが新たな創造のプラットフォームとなる。

03 between boundaries
私たちは普段から様々な領域と接している。人とモノ。モノと空間。内と外。自己と他者。
そういった様々な領域の輪郭線をボカしてみたり、消し去ってみたり、わずかにずらしてみることで、
凝り固まっていた既成概念が緩やかに溶解していき、スキマが生まれる。

04 between the object
モノの内側にもスキマはたくさんある。それを広げたり縮めたり、あるいは全く異なる要素を
挿入することで、新たな機能や意味をモノの内側から与えることが可能になる。
スキマが存在しない場合は何かをほんの少しだけずらしてあげることで、充分に作り出すことができる。
連続的なスキマを利用した、要素同士の「重なり」や「奥行き」もまた興味深い。

05 between relationships
主従関係や位置関係など、複数の要素の間には必ず何かしらの「関係性」があり、常に一定のバランスが
保たれている。その均衡状態を一度崩すことで既存の関係性にスキマを作り、再構築する。
本来は分離しているものを繋げる。横にならんでいるものを重ねる。構造と仕上げ、
または意匠と機能の関係性を逆転させる。そんな、新たな関係性のバランスを発見することに価値がある。

06 between senses
音や味、香り、時間といった目に見えない「感覚」を形に変換することでより多くの人々に
認識できるようになる。それは聴覚と視覚、あるいは味覚と視覚といった2つの異なる感覚の
スキマを探る作業でもある。そういったデザインは、視覚情報を別の感覚系統に変換する作業を
受け手側の頭の中でさせるため、クイスやパズルを解いた時にも似た、スッキリとした後味を与えてくれる。

展示空間はオープンに使うのでも壁で細かく仕切るのでもなく、高さ900 mmの腰壁で作品を
囲っていくことに。こうすることで、セキュリティーや安全面に配慮しつつ、空間の開放性と
作品の独自性をどちらも確保することができた。作品の「頭の一部」がチラホラと見え隠れし、
腰壁越しに覗き込むようして鑑賞する様子はまるで「動物園」のようでもあり、
人と作品の間に適度な距離感を生み出す。会場の入り口から見ると腰壁の内側は白く統一され、
反対側から見ると6つのテーマに対応した色に塗り分けられていることに気づく。

こうすることで、作品が一見すると雑然とした配置ながらも、作品が属しているテーマが
識別できるようになった。また、受付で専用アプリをダウンロードし、作品の近くに立ち寄ると
作品コンセプトを表した28種類のアニメーション動画を手持ちのスマートフォンで視聴することができる。
囲いの内側には白い小石が敷き詰められており、配線などを隠しつつ、腰壁の「重し」としての
役割も兼ねることを考え、さらに、腰壁には小さな窓を開けていくことで、別の角度からも作品を
楽しめるようにした。小石と窓によって囲いの内側が「庭」にも「家」にも見えるような感覚になり、
それらのスキマ(the space in between)を自由に歩き回りながら、いくつか用意されている
「広場」のような場所で座って休憩ができることで、小さな「街」のようにも感じられる空間構成となった。

図録はテキストとビジュアル要素をそれぞれ分けた2冊組の構成にし、ケースに入れると2冊の間に
わずかな「スキマ」ができるようなデザインにした。 そこに挟むことで本が固定できる小さな
プロダクトを、蛇口、花、鍵、ジッパー、扉、ノコギリ、と、分類テーマの数と同じ6種類用意し、
本を購入した人がその中からどれかひとつを選べるようにした。 また、2冊が合わさることで
1冊としての役割を果たすことが直感的にわかるように、2つの背表紙をまたぐようにしてタイトルが
配置され、本をケースから引き出すと側面に伸びているストライプと相まってタイトルの
文字が引き伸ばされるような視覚効果が生まれるようにするなど、
どこまでも「スキマ」を生かしたデザインを心がけた。

Client:
Design Museum Holon
2016.06